日本を代表する東北のホテル
昭和10年代、のちに国際情勢の影響で幻となる昭和15年の東京オリンピックに向けて、世界各国から要人を迎え入れるため、政府の要請による大型ホテルが日本の数カ所に建てられました。昭和13年に完成した「十和田ホテル」もその一つです。樹齢を重ねた天然の秋田杉をふんだんに使い、施工には隣県から宮大工を集め、当時の建築技術の粋を極めた木造三階建の和洋ホテルでした。その後、戦争による閉鎖やアメリカ軍による接収も経験しましたが、先代たちの弛まぬ努力もあり、昭和36年の秋田国体に際しては、昭和天皇皇后両陛下にご宿泊賜るという栄誉にも浴しました。平成10年の館のリニューアルの際には、半世紀を経て独特の風合いと強度を保つ天然秋田杉の大部分は、再利用する手法が用いられました。

十和田石の浴槽に浸かって十和田湖を眺める贅沢
そのリニューアルの際、浴場も改築され、現在の十和田石の浴槽を有するようになりました。十和田石は採掘されるようになってから50年も経っていないと聞きます。つまり、昭和10年代、当館をつくった人々はその存在すら知り得ませんでした。しかし、平成10年に当館を改築した人間は、ホテルと同じ名を持ち、目の前の湖と同じ色を持つ、地域固有の天然石の存在を知っていました。当然のように浴槽には十和田石を使うことになりました。
当館の浴場には、十和田湖の絶景を見下ろす露天風呂もあります。お湯は十和田湖に注ぐ湧き水を利用しております。景観も水も石も、すべてが“十和田”を軸に再構築された地産地消の贅沢を味わうことができます。
当館には遠方からお越しいただくお客様も多く、浴槽で使っているのはなんという石かと、尋ねられることも少なくありません。“十和田石といいます”とお答えすると、皆様、腑に落ちたようなお顔をされます。
